いつか、きみに、ホットケーキ
22. 逡巡

高層ビルの2階にある洋食屋は価格的に入りやすいのだろうか。若いカップルが多かった。菅生さんはメニューを決めるのが早い。湖山はなんだか自分が何を食べたいのか分からずに、メニューを端から端まで眺めることを何度か繰り返した後、結局菅生さんと同じものを頼むことにした。

「相当病んでるのね」
と菅生さんが苦笑いをする。
「え?なんで?」
「メニュー迷ってたでしょ?」
「あ?あぁ・・・。うん、なんか腹は減ってるんだけど、ね。」
「湖山さんらしくもない」
「そうかな?」
「そうよ。」

ヨーロッパの町並みにぽつんとあるような食堂を模したその店は、窓に古びた木枠があり、ガラス窓も少しゆがんだような感じで、ショッピングを楽しむ人たちが行き来する往来を見せている。子連れやカップル、女子学生らしい人たちが笑顔を見せて通りすぎるのを、湖山と菅生は同じような表情をして見つめていた。

「どっちにするの?」
「なにが?」
「スーツ」
「そうねえ・・・どうしようかな・・・、やっぱり紺色がいいかなあ・・。黒ってなんとなく抵抗があるの。」
「デザインも紺色の方が地味だったよね。でも生地が良かった。」
「うん。そうなのよね。やっぱり紺にしようかな・・・。」

高校生くらいに見える男の子は、明らかに彼女のものだと思われる大きいバッグを肩に提げて歩いている。彼女は彼の腕を取って少し弾むように歩いているのが見える。

「大沢さんの彼女に、会ったことある?」
「え?いや、ないよ。」
「ふーん。」

小さな男の子がかけって父親の手にしがみついた。母親がその後を小走りで追いかけていた。

「なんで?」
「ん?どんな人なのかなって思っただけ。可愛い人だろうな。そういう人が好きそうだよね」
「そうだね。そんな気がするね。あいつ、面倒見がいいから」
「うん、ほっとけなくて、色々やっちゃうタイプだよね。」
「そうそう、そういうタイプ。そういう・・・」

レジ袋を持って立っている大沢。冷蔵庫に入っていた野菜ジュース、ゼリー、プリン、お粥のレトルトパック・・・。湖山のベッドの横の床で長い手足を折り曲げて寝ていた姿、楽しそうに機材をしまう大沢。なぜなのか、湖山の頭の中で、湖山の知る限りの大沢が動き始める。
< 22 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop