いつか、きみに、ホットケーキ
24. 本当の気持ち
「とられちゃうような、気がしているの?」
「え?」
「お嫁さんに、大沢さんを・・・」
「え?どうして・・・?そんなこと、ない」
「そんなふうに見えるけどな?」
「いや、なんで、そんなことないよ」
「モヤモヤしているのは・・・」
そこまで言って、菅生さんは、可も無い不可も無いオムライスを食べ終わると、丁寧に口元を拭いて湖山の方に真っ直ぐに向き直った。
「あのねえ、湖山さん。いいことを教えてあげよっか?」
「うん。」
「湖山さんはきっと、大沢さんのことが好きなのよ。つまり、恋愛感情にかなり近い気持ちで。」
「・・・ッ、なッなに・・・」
「ついで、といっては何だけど、もうひとつ、大事な事を教えてあげるね。」
菅生さんは財布の中から一枚のカードを取り出す。車の免許証だった。そこには菅生さんのフルネームと、菅生さんの生年月日、本籍が書かれている。
「ここ、見て?」
「・・・・・?え・・・!?」
「ね?」
「性別にこだわっている私が言うのもなんだけど、多分、本当は性別なんて関係ないのよね。心が惹かれあう時って、男だからとか女だからとかそんなくだらない理由で惹かれるわけじゃないのよ。もちろん、人間は動物だから、<本能>というものがあって、子孫を残したいとか、フェロモンを感じるとか、いろいろな要素が重なり合った所で恋に落ちたりする訳だけど、おにぎりよりもホットケーキが心を満たすみたいに、心や身体のどこか欠けた部分が求めるものは、単純に命を繋ぐためだけなんかじゃない、そうでしょ?」
力強い瞳で菅生さんは湖山に問う。
「ホットケーキを、食べたかったんでしょ?」
菅生さんの瞳に、自分が映っているのが見える。
「ホットケーキを、焼いてくれた人がいた。いつもあなたの側で、あなたが欲しいと思うときにホットケーキを焼いてくれた人がいた。」
そうだ、その通りだ。
「あなたが今どうして欲しいのか、何も言わずに、何も訊かずに、側にいてくれた人がいた。大沢さんは、湖山さんの心を満たしたホットケーキなんでしょう?」