いつか、きみに、ホットケーキ
9. 道

この道はどこへ続いているのだろう。茎を地面に置いて立ち止まったままの湖山の肩を抱いたその人が少し力を込めて湖山を道の先へ促すように感じた時、湖山は現実に引き戻された。

菅生さんはまた、湖山には見えない線路の先を見つめているようだった。あるいは地平線だろうか。

「どこへ、行こうとしているのでしょうね。その二枚の写真の中にいる菅生さんは・・・」
「そうですね、このまま、この先へ。湖山さんと同じですよ。」
「この道の先・・・。」

目的地、終着点、通過点、そんな言葉が頭に浮かぶ。そして、大沢が使っていた言葉を思い出す。

「菅生さん、<夢>はありますか?」
「夢?」
「えぇ、夢。」
「そうですねえ・・・・お嫁さんになること、とか?」
「・・・・!」
「なった事がないんですものねえ・・・」
「いつでも、なれたのではないですか?」
「いいえ、なったことがないし、この先も多分・・・。でもいつか、好きな人の側にずっといるような生活をしてみたい、とは思いますけれど。この道を真っ直ぐに進んでいって、いつか、そんなことがあったら・・・。」

菅生さんはもう、湖山の目を見ていない。湖山を通り越したどこかを見ている。

「夢、なんて言葉・・・、久々に聞きました」
菅生さんの瞳がまた湖山に戻ってくる。

「ええ、僕も、すごく久しぶりに聞いたんです。大沢がその言葉を口にしたとき、よく照れずに話せるなあって思いました。」
「大沢さんが?でも、彼なら『夢』という言葉を使いそうな気がします。」
「そうですね、僕も、彼がその言葉を使うのはなんとなく頼もしいなあと思ったんですよ。」
「湖山さんは?夢は?」
「ええ、僕ね、同じ事を言ったんです。お嫁さん、貰う事かなーとかって。」
「あら、そうなんですか?」
「ええ、そう。だからいまちょっと面白かった」
「うふふ。それで?本当の夢は?」
「このまま、仕事を続けていく事かな」

『だからぁ、お嫁さんを貰う事ですって~』と言う事もできたけれど、湖山はそう言わなかった。菅生さんに、自分を知ってもらいたかったのがひとつ。それから、見透かされそうな菅生さんの目が「茶化すな!」と言っているような気がした。

「大沢と肉だか鍋だか突つきながら話していたんです。自分たちの夢について、夢を叶えた次の夢ってなんだろうか、とか。お互いね、このままこうやって仕事をしていくこと、それが夢だねって話に落ち着いたんだけど。なんだっけな、そうそう、結婚観の話とかにもなって・・・。恋愛が終わったあとに何が残るんだろうかとか、結婚する相手とかってどういうんだろう、とか、なんかそういう話。」

「男の人もそんな話するんですねえ。」

「え?するでしょ?しますよ・・・?普通に。」

「ふーん・・・なんか男の人たちが飲むときって会社の悪口と仕事の愚痴しか話さないイメージがあるから。」

「あぁ、そうですねえ、そういうこともありますけど。相手によっては・・・でも、大沢とはそういやあんまりそういう話しないなあ。」

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