真夜中に口笛が聞こえる
 花を紹介する為に伸ばした白河の右手が震えていた。
 白河はとっさに左手で右手首を押さえたが、それでも収まらない。

 信一郎と美咲が目を丸くしてその様子を見ていると、白河も気付いて説明を始めた。

「すみません。随分前の話なんですがねぇ。土いじり中に、誤ってそこの鎌で自分の右手首の神経を傷付けてしまいましてね。それはもう、痛いのなんの」

 白河はプランターの土に突き刺さった鎌を、震えていない左手で指差す。

「最初はピュッて少しばかり血が出ただけだったんですがね、その後にダラダラと流れて。それから、よくこんな風に痺れて、震えるんですよ」 

 白河は右手首から血が流れた筋を、つくって見せた。

「そうなんですか。それは大変でしたね」

 信一郎は血を想像してしまい、相槌を打つだけで精一杯になった。


「土いじりも気を付けないと、鎌とかスコップなど、凶器になり兼ねませんよ」

「そうですよね」

 信一郎は、血が苦手だった。口の中で、鉄分の味がする。


「ああ、お嬢ちゃん、ごめんよ。話が逸れちゃって。そこの綺麗なお花をあげよう。鉢植えにしてあげるよ」

 白河は、美佳の足下に植えられている白い鈴蘭を指差した。
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