真夜中に口笛が聞こえる
それから、数日経ったある日の午後、住宅地の静寂を破る出来事があった。
美咲が家事をしていると、隣の公園から、突然、子供の大きな泣き声が聞こえたのだ。
慌てて小窓から様子を窺うと、蹲った勇馬の顔を、時子が覗き込んでいた。
取っ手付きの安いプラスチックケースでこしらえた救急箱を持って、美咲は公園へ回った。
「どうかしましたか?」
公園に入ったところで、再び声を掛けた。
「勇馬、大丈夫?」
時子の声は答えを求めていた。
勇馬の親指から血が出ている。玉のように膨らんで、とろりと今にも流れ落ちそうだった。
「勇馬が花壇で転んだんです」
よく見ると、指に棘が刺さってる。
時子がつまんで引き抜くと、それは、薔薇の棘だった。
「バラ? なんで公園なんかにバラがあるのよ」
そう吐き捨てると、一番近い薔薇のプランターを、時子はつま先で蹴った。
「子供が遊ぶところに、トゲつきの植物を植えるもんじゃないわよ」
再び、時子は蹴る。
今度は足の裏で踏み付けるようにプランターの縁を蹴った。
美咲は勇馬を、公園の角に設置されている水道水の出るところまで連れて行った。
蛇口を捻ると、シュルシュルと音が鳴る。その後、頼りなく出てきた水道水で、トゲの刺さっていた親指の血を洗い流した。
「はい、これで大丈夫。消毒して、こうしてバンソコウを貼っておこうね。ほら、もう大丈夫だから、泣かないで」
美咲になだめられて、絆創膏を貼り、勇馬は涙目で顔を上げる。
「ありがとう」
勇馬のたどたどしいもの言いだった。
「美咲さん、ありがとう」
時子も同時に言ったが、血の付いた棘を、未だに忌々しく見ていた。
美咲が家事をしていると、隣の公園から、突然、子供の大きな泣き声が聞こえたのだ。
慌てて小窓から様子を窺うと、蹲った勇馬の顔を、時子が覗き込んでいた。
取っ手付きの安いプラスチックケースでこしらえた救急箱を持って、美咲は公園へ回った。
「どうかしましたか?」
公園に入ったところで、再び声を掛けた。
「勇馬、大丈夫?」
時子の声は答えを求めていた。
勇馬の親指から血が出ている。玉のように膨らんで、とろりと今にも流れ落ちそうだった。
「勇馬が花壇で転んだんです」
よく見ると、指に棘が刺さってる。
時子がつまんで引き抜くと、それは、薔薇の棘だった。
「バラ? なんで公園なんかにバラがあるのよ」
そう吐き捨てると、一番近い薔薇のプランターを、時子はつま先で蹴った。
「子供が遊ぶところに、トゲつきの植物を植えるもんじゃないわよ」
再び、時子は蹴る。
今度は足の裏で踏み付けるようにプランターの縁を蹴った。
美咲は勇馬を、公園の角に設置されている水道水の出るところまで連れて行った。
蛇口を捻ると、シュルシュルと音が鳴る。その後、頼りなく出てきた水道水で、トゲの刺さっていた親指の血を洗い流した。
「はい、これで大丈夫。消毒して、こうしてバンソコウを貼っておこうね。ほら、もう大丈夫だから、泣かないで」
美咲になだめられて、絆創膏を貼り、勇馬は涙目で顔を上げる。
「ありがとう」
勇馬のたどたどしいもの言いだった。
「美咲さん、ありがとう」
時子も同時に言ったが、血の付いた棘を、未だに忌々しく見ていた。