真夜中に口笛が聞こえる
「そんなことがあったんだ」

 美咲の話を聞き、夕食の秋刀魚を食べながら、信一郎は頷いた。


「あの公園、趣味に走ってるような気がするの」


「そうだな。でも、子供がいないから、その辺りのことを、気がつかなかったかもしれないし」

 信一郎は、ご飯を箸の上に掬い上げて、口の中に運ぶ。それを二回繰り返して、タクアンをつまんだ。


「それはあるわね」

 美咲は口元に手を当てて、考え込む。

 既に夕飯を食べ終わっていた美佳は、ボリュームを絞ってテレビを見ていた。


「何とかうまくやっていかないとね。特に白河さんとは」

 タクアンを放り込んだ箸で、信一郎はカチカチと鳴らす。


「そうね。ずっとこれからもご近所だものね」

 美咲は美佳と一緒に夕飯を済ませており、信一郎の前で温かいお茶を飲んでいた。

 そのお茶の湯気が、美咲の浮かない顔の前を、白く漂っていた。


「まあ、アサガオの時は、ちょっとムカっときたんだけどね」

 箸でアサガオが侵入した後ろの壁を差した。信一郎は美咲のうかない顔を一瞥し、左手でお茶を流し込む。

 お茶をテーブルの上に置くと、ふうーと大きく息を吐いた。
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