真夜中に口笛が聞こえる
「──ところで、何か気になることでもありましたか? 困っとることでも?」

 宮坂は美咲から発っせられた、自分に対する些細なジグナルを見逃してはいなかった。

 美咲が宮坂の制服をまじまじと見つめた、それである。


「いえ、あの、お忙しいとは思いますが、御近所トラブルといいますか、その……」

「とりあえず、言ってみて下さい」

 宮坂は何処にでも売っている小さなメモ用紙の表紙をめくり上げ、手の中に納まるような短い鉛筆で書く用意をする。

「はい、実は……」

 その様子を見て、美咲は慎重に言葉を選んで話し出した。

 ゴミのこと。ネコの死体のこと。

 アサガオのこと。公園のバラで子供が怪我をしたこと。犬が殺されたこと。


「ウーン。いろいろありますな」

「でも、御近所は一軒だけだったんですよ」

「そうですねー」

 宮坂はメモに書いた文字をなぞる。鉛筆で書いた文字は、紙の上で直ぐに滲む。


「何とかならないものでしょうか」

「分かりました。しかし今の時点で我々が出来ることは、巡回ぐらいですね」

「はぁ、やはり、そうですよね」

 宮坂はパタンと、手首のスナップを利かせて、メモ用紙を閉じた。

「大丈夫です。白河さんところの様子を伺っておきましょう。奥さんもご病気のようだから」
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