真夜中に口笛が聞こえる
◇第十章 対決
時折、強い風が吹く中、学校帰りの美佳の前に、大きな影が立ちはだかった。
その影の中にすっぽりと覆われてしまう美佳。
小さくしゃがんだ時に、赤いランドセルに付けた三毛猫のマスコットが、地面に触れて横たわる。
「お母さん……」
恐怖で美佳の声がかすれる。
土で汚れた熊手が、頬の側をかすめていた。
◇
「美佳が帰ってこないの」
信一郎が全ての草を刈り終えて戻って来ると、美咲が玄関先に出てきて、堰を切ったように訴えた。
「もう学校が終わる時間か……」
草を刈ることに集中していて、何時なのか忘れていたようである。
信一郎は植物の放つ液体で、血だらけのようになっていた。
「どこかで道草でもしてるんじゃないか」
「信ちゃんの時代とは違うのよ」
「どういう意味?」
自分を引き合いに出された信一郎は、顧みることもなくつっかかった。
「……とにかく、そんな子じゃないわ。それに、さっきテレビで見たけど、台風が速度を上げて迫っているらしいの」
「そんなに近いのか? 学校には連絡したのか?」
「学校はもう帰ったって。お巡りさんにも、相談してみるわ」
「わかった。僕は着替えてから、ちょっと周りを見てくるよ」
洗面所で体に付着した植物の液体を洗い流し、急いで服を着替える。着ていた服も体を拭ったタオルも、真っ赤に染まった。
信一郎は早速、造成中の地区を歩いた。
何も変わらない。美佳の姿はどこにもない。
白河の家の近くまで歩いて、急に嫌な気分になった。
無性に気になる。
白河とは昨晩の事もある。ひょっとしたら、白河が関係していないか?
白河と顔を合わせたくはなかったが、この際、そうも言っていられない。
同じころ、美咲が連絡をした事で、お巡りさんが自転車に乗って付近を捜索していた。
佐野だった。
白河の家に向かう人物を遠くから見付ける。佐野は声を出し、手を振った。
中を伺おうとしている信一郎の背中だった。風の音に遮られ、信一郎は気付かない。
その影の中にすっぽりと覆われてしまう美佳。
小さくしゃがんだ時に、赤いランドセルに付けた三毛猫のマスコットが、地面に触れて横たわる。
「お母さん……」
恐怖で美佳の声がかすれる。
土で汚れた熊手が、頬の側をかすめていた。
◇
「美佳が帰ってこないの」
信一郎が全ての草を刈り終えて戻って来ると、美咲が玄関先に出てきて、堰を切ったように訴えた。
「もう学校が終わる時間か……」
草を刈ることに集中していて、何時なのか忘れていたようである。
信一郎は植物の放つ液体で、血だらけのようになっていた。
「どこかで道草でもしてるんじゃないか」
「信ちゃんの時代とは違うのよ」
「どういう意味?」
自分を引き合いに出された信一郎は、顧みることもなくつっかかった。
「……とにかく、そんな子じゃないわ。それに、さっきテレビで見たけど、台風が速度を上げて迫っているらしいの」
「そんなに近いのか? 学校には連絡したのか?」
「学校はもう帰ったって。お巡りさんにも、相談してみるわ」
「わかった。僕は着替えてから、ちょっと周りを見てくるよ」
洗面所で体に付着した植物の液体を洗い流し、急いで服を着替える。着ていた服も体を拭ったタオルも、真っ赤に染まった。
信一郎は早速、造成中の地区を歩いた。
何も変わらない。美佳の姿はどこにもない。
白河の家の近くまで歩いて、急に嫌な気分になった。
無性に気になる。
白河とは昨晩の事もある。ひょっとしたら、白河が関係していないか?
白河と顔を合わせたくはなかったが、この際、そうも言っていられない。
同じころ、美咲が連絡をした事で、お巡りさんが自転車に乗って付近を捜索していた。
佐野だった。
白河の家に向かう人物を遠くから見付ける。佐野は声を出し、手を振った。
中を伺おうとしている信一郎の背中だった。風の音に遮られ、信一郎は気付かない。