真夜中に口笛が聞こえる
「お父さん、しっかりして! お父さん!」

 意識が戻ると、信一郎は板の上に仰向けに寝かされ、両手両足を紐のようなもので縛り付けられていた。

 首には金属の枷が取り付けられている。

 動けない。

 全く、信一郎は動けなかった。


「大丈夫か、美佳!」

「うん、縛られているだけ」

 頭上の美佳の様子は、信一郎には見えなかった。

 美佳は後ろ手に縛られ、土壁にもたれていた。


「待ってろよ、今助けるから」

 信一郎がそう、美佳に声を掛けた時だった。うめき声がする。

「あああ、ううう」

 信一郎の横にもう一人、誰かが横たわっていた。何とか信一郎は首を上げ、横を向いて確認した。

「何だ、これは?」

 裸なのか?

 しかし全身に、カイワレのようなものが生えている。

 足も腹も、腕にも、頬にも。


「ひっひぃぃい……」

 信一郎は思わず声をあげた。逃げ出したくとも、体が固定されている。

 それは、芋虫のようにウネウネと動いていた。


「タスケテ……、助けて」


「まっ、まさか、アンタは民代さん?」

 宮坂巡査と美咲とのやりとりは、妻から聞いていた。白河を除いてこの家に居るとすれば、妻の民代以外に考えられない。


「うぅーン、うーん」

 芋虫は体を波打って頷く。

「本当に民代さんなのか!」

「助けて、助けて……えぇえええ」

 カイワレだらけの顔で、民代は何度も頷いた。

「そんな、ウソだろ……」


 その時、あの聞き覚えのある口笛が聞こえた。

 口笛が、信一郎の背後で、だんだんと大きくなる。

 心無しか、芋虫のような民代が震えている。

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