真夜中に口笛が聞こえる
 小学生二年生の金山ゆかりと八十一歳の涼城町子の失踪事件を追っていたフリーのジャーナリスト、金山静江の接見は、民代自身の強い要望により許可された。

 静江は、金山ゆかりの母親でもある。大学在学時代にゆかりを産んだシングルマザーで、持ち前の貪欲な取材姿勢で、フリーとして食べて行けるようにまでなった。業界内で、一目置かれていたのだ。

 テレビにも何度か出演している。主に女性層からの支持は高かった。

「この度は取材を受けて頂き、ありがとうございます」

 静江は真っ白いスーツに身を包み、民代の取材に臨む。


「静江さん。貴方にはまずは謝らせて下さい。本当に、本当にご免なさい。それから、私は貴方に、これからとても残酷なお話をさせて頂くことになります」

「構いません。覚悟は出来ていますから。私は真実を知りたいのです。どうぞ、話して下さい」


 民代はあの液体について、話をする。

「夫の話によると、極秘に旧日本帝国軍が研究所で食糧難に陥った日本の国土を改造すべく、開発が進められた秘薬なんだそうです」

「秘薬? 旧日本帝国軍……」

 静江は重要なキーワードをもとに、メモをとる。相手の表情を凝視し、何事も聞き漏らさない。


「捕虜や政治犯を有効利用として、土壌化、肥料などへの転嫁を考えたのです。敗戦により研究成果は闇に葬られた筈でした」

「……」

「おそらくお調べになっているかと思いますが、もともと私も白河も、大手製薬会社の研究員だったんです」

 その事は当然、静江の調べたノートにも書かれている。民代の夫、白河秀夫(しらかわひでお)は、日本で五本の指に入るほどの優秀な植物学者だ。そこに目を付けた製薬会社が、自社の研究開発の首席として招聘している。
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