真夜中に口笛が聞こえる
「もう、私には手も、足も、ありません」

 民代は体を起こしているとはいえ、胴体に首が辛うじて付いているだけで、両手、両足は根本から切断されていた。

 蜘蛛の足のように体に刺されたチューブ。

 球根のような体……。


 これで生きていると言えるのだろうか?

 人間だと言えるのか?

 静江は思った。


「研究員の皆さまのお陰で、こうして生き長らえる事が出来ました。しかし、きっと、彼を支えてあげられなかった罰なんでしょうね」

 民代はその時、確かに罰と言った。自分は罰を受けているのだと。

 静江は分からなくなった。なぜ、実験体にされた挙げ句に、そこまで自分の責任を探さねばならないのか。感じなければならないのか。

「この後、高崎信一郎さんの所へも取材に参ります。今回の事件で、彼は左腕を失いました。民代さんから、何かお伝えするようなことはありますか?」

 民代は長らく沈黙する。静江は辛抱強く返事を待った。すると、民代はあたかも高崎信一郎がいるかのように、静かに話だした。

「高崎さん。あなたも左腕を失ったのですね。その痛みも、きっと貴方の行く末を妨げるものではありません。どうか、お互いに心を強くして、生きてゆきましょう」

「そのまま伝えれば、よろしいのですか?」

 民代の真意を考え、静江は確認した。高崎信一郎にだけ分かる言葉でも、潜んでいるような気がしてならない。

「ええ、結構です」

 民代は素っ気なく答えた。

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