真夜中に口笛が聞こえる
◇第十二章 守るべきもの
「高崎さん、大丈夫ですよ」
薬品に囲まれた診察室で、背広の上に白衣を纏った研究主任、越石誉(こしいしほまれ)が身を乗り出し、信一郎を諭す。
「お薬をちゃんと飲んでますか? きちんと飲んで頂ければ、心配はありませんよ」
痩せこけて白髪混じりの越石は、ボールペンの背中で信一郎を指し、小さな目を向け、口元を緩ませる。
「すみません。薬を続けていてずっと体の調子が悪かったものですから、今週は飲んでなかったんです」
「飲んでいらっしゃらない?」
越石のペンが止まる。
越石は見た目以上に若かった。まだ、三十手前なのだが、秀才の名を欲しいままに国の研究機関に身を置き、そして、この仕事が回ってきたのである。
「はい」
信一郎は恐る恐る答える。
越石は机に片肘を付いて、カルテに書き込んで行く。
「フウム。ええっと、今週からと言いますと、薬を断ってから三日目ですね」
「ええ、そうです」
信一郎の体から汗が吹き出た。シャツの背中が透ける。
「入院、お願い出来ますか?」
「入院、ですか」
「そうです」
ペンを止め、越石が向き直る。
「一刻も早い、治療が必要なのです」
信一郎は額に手を当て、こめかみから頭蓋骨を掴む。越石の直線的なもの言いが、余計に不安を掻き立てる。
「分かりました」
信一郎は静かに答えた。
薬品に囲まれた診察室で、背広の上に白衣を纏った研究主任、越石誉(こしいしほまれ)が身を乗り出し、信一郎を諭す。
「お薬をちゃんと飲んでますか? きちんと飲んで頂ければ、心配はありませんよ」
痩せこけて白髪混じりの越石は、ボールペンの背中で信一郎を指し、小さな目を向け、口元を緩ませる。
「すみません。薬を続けていてずっと体の調子が悪かったものですから、今週は飲んでなかったんです」
「飲んでいらっしゃらない?」
越石のペンが止まる。
越石は見た目以上に若かった。まだ、三十手前なのだが、秀才の名を欲しいままに国の研究機関に身を置き、そして、この仕事が回ってきたのである。
「はい」
信一郎は恐る恐る答える。
越石は机に片肘を付いて、カルテに書き込んで行く。
「フウム。ええっと、今週からと言いますと、薬を断ってから三日目ですね」
「ええ、そうです」
信一郎の体から汗が吹き出た。シャツの背中が透ける。
「入院、お願い出来ますか?」
「入院、ですか」
「そうです」
ペンを止め、越石が向き直る。
「一刻も早い、治療が必要なのです」
信一郎は額に手を当て、こめかみから頭蓋骨を掴む。越石の直線的なもの言いが、余計に不安を掻き立てる。
「分かりました」
信一郎は静かに答えた。