Jet Black
 その目を見て、確信した。君はやはり、あの時の。




「…さて、何から話そうか」

 ふわり、と紅茶の香りが部屋に充満して。

 こずえが音もなく蒼居に寄り添う。

 半透明の彼女と漆黒の男の姿は、まるで一枚の絵画のようだった。

「…そうだな、まずは自己紹介でもするかな」

 今更だがと笑う男は、足を組みその上で手を組む。

 それだけで、この場はこの男の支配する空間になった。

「先ほど、もしかしたら断片的に理解したかもしれないが。この店の店主、蒼居だ。…魔法使い、などと言われているがあながち間違っていないな」

「…魔法使い?」

 確かに不思議なことが立て続けだが。

 さっきも何もないのに手にネクタイが出てきて、あっと言う間にイスが直って。

 戻ってみたらこのソファーが設置されてて。

「超能力者よりはいろいろできる、ということだ。でなけりゃ」

 彼女の説明はつかないだろう。

 そう言って自分の傍らを示すように手を差し出した。

「確かに」

 視線が行くのはこずえの姿。

 にっこり笑ったこずえは、何かに気付いたように凌に向かって首を傾げる。

「そういえば、凌は良く私の姿見えるわよね。驚きも怖がりもしないし。霊感強い?」

「…ああ」

 そういや追われて逃げ込んだんだった。

「6人憑けてくる強者だからな」

 笑みを浮かべた蒼居は、こずえに視線を向ける。

「なかなかいないだろう」

「…ええ、これならみんな見えるかもね」

 訳の分からない会話に凌はわずかに眉間に皺を寄せた。

「…さっきから気になってたんだが、ここは何の店なんだ?さっきの社長はなんでも屋とか言ってたけど」

「ああ」

 蒼居は小さく声を上げて、目の前に置かれている紅茶に手を伸ばす。

「そのままその通り。なんでも屋だよ。取引や物も売るし、して欲しいことがあればやる。買い取りもするし…それに」

 に、と笑った顔は少しだけ楽しそうだった。

「…お望みならば、魔法もね」

 ただ、人の生死だけは手を出せないのだと、まるで簡単なことのように結んだ。

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