Jet Black
「…何の話だか」
「うわ、ここまできてシラ切るか」
静かに言う蒼居に対して呆れたような凌の声。
そして明らかに顔を強張らせたこずえ。
三者三様の光景に終止符を打ったのはあくまで蒼居だった。
「…まあそれはいい。それで、凌はどうしたい?今回の依頼は難しくないし、参加してみたいというのなら構わない。守秘義務は守ってもらうがね」
ちなみに雇用保険もないよ、と冗談めかして言ってくる蒼居の目は、それでも真剣だった。
「…もしNOなら?」
「ここに関する記憶を全部消して終わり」
「…そうか」
ああ、試されているな。とぼんやり思って。
しかしなんだかあっさり頷くのも釈然としなくて。
「…じゃ、俺も一つ依頼」
「は?」
少し意地悪してみようと思ったんだ。
「この霊媒体質、どうにかならない?」
吹き出した蒼居に、こずえが驚いたように振り返った。
「…そんなワケで、参加希望」
「降参だ。まさか交換条件でくるとは」
こっちには何のメリットもないのに。
くっくっと笑う蒼居を、こずえはまだ信じられないように見ている。
「…分かった。バイト代はその依頼だな」
「おう」
差し出された手を握り返せば、その後ろでわずかに笑ったこずえが見えた。
そして、俺のお試しバイトはスタートすることになる。
「…じゃ、よろしく」
「…おう」
寂し気な笑みが満面の笑顔に変わったことは、口にしないでおこうと心に決めながら。