Jet Black



 ごごごご。

 どこかで低い音がした。

 ごごごごごご。

 それは、あまりにも静かで。

 気付く者はいなかったけれど。

 ごご、ごうん。

 突然止まった轟音と、飲み込むような音。

 わずかに間があって。

 …ごご、ごごごご。

 再び響き出した音は、まだ…誰も気付かない。




 ふわり、と透けたこずえの姿が前方に見える。

 いつもよりも見えにくいその姿は、確かに一般の人間からは見えないだろう。

 凌はスーツの襟を引き伸ばしながら、こずえの姿をぼーと眺めた。

 ちなみに学校から直行だった凌の紺と灰色の制服は、蒼居によって深い緑色に変えられている。

「えーとね」

 くるりと振り返ったこずえは、声をひそめて凌の隣りまで飛んで来た。

「まずは私が調べたことね。書類を覗き見したところ、行方不明者は今のところ6人。年齢も性別もバラバラ。男性二人の女性四人でただ四十代より上の人はいないみたい」

「…働き盛り、ってことか」

 唸り声を上げる凌にこずえは小さく微笑む。

「どのへんでいなくなった…とかは?」

「うん、それが私には分からなくて。警察も調べたらしいけど、みんな口を閉ざしてたみたい」

 ふうむ、と凌は親指を顎につけた。

「…じゃ、まずは女の子かな」

 いきなりの一言にこずえは思わず素頓狂な声を上げる。

「へ?」

 凌はにっこりと笑った。




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