Jet Black
感じたのは。寂しさか、悲しさか。
凌はゆっくりと会議室から出て、企画部へと向かった。
「さて、どうやって聞くかな」
凌の呟きに、こずえはけらけら笑う。
「口説き落とすとか?」
「…いやそれは…」
言いかけた凌が勢い良く振り返り、こずえは驚いたように小さく声を上げた。
「ど、どしたの?凌」
「…今、何か」
「あら?」
途端に目の前のドアが開く。
「…何かご用?」
「うわ!」
企画部のドアの前で立ち止まっていたためか、女子社員が一人顔を覗かせていた。
「…え?あ…」
「見ない顔ね、新入社員くん?」
「あ、いえ。…はい」
困ったような顔の凌に女子社員は小さく吹き出したようだった。
「…どっち?ま、いいわ。何かご用?」
微笑む女性社員に少し落ち着く。
すう、と息を吸って凌はなるべく穏やかに言った。
「すいません。真弓さんっていらっしゃいますか?」
女子社員の姿が一瞬強張り、そしてすぐに笑顔に戻る。
「ちょっと待ってね」
パタンと扉が閉じて、何かを片付ける音と何かを話す音。
そして再び女性社員が顔を出した。
「お待たせしました。志村真弓は私よ」
凌はわずかに驚いて、すぐに微笑む。
「少しだけ、お時間いただけますか?」
見えたのは真弓がきゅっと唇を噛み締めた姿、だけ。