Jet Black
依頼1
 カラン、と軽いドアベルが鳴る。

 そんなのが付いていたのかと驚いて顔を上げた。

 開いた扉のその先。

 帽子を被った老人が一人。

「…ふむ」

 紳士的帽子を取り、胸に添えてわずかな笑み。

「…樹木屋は、ここでよろしいのかな?」

「ええ、お待ちしておりました」

 その言葉で、凌はようやくここが店だと言うことを理解して。

「では、君がなんでも屋かね」

「ええ、蒼居…と申します」

 そこでようやく、男の名を知った。

 続くように聞こえたのは、さっきも聞いた一言。

「ようこそ、樹木屋へ」




「依頼というのは…」

 老人が話し始めたのを皮切りに、凌は蒼居の後ろにそろりと回る。

 透明な少女が軽くこいこいと手招きしている姿に近寄った。

「こっち」

 手を引っ張られる感覚に素直に付いて行ってみる。

 そこは簡易の台所。

「お茶、私持っていけないのよね。お願いできる?」

「まあ、その姿だからな」

 少女に軽く相槌を打ち、凌はコーヒーフィルターを取り出す。

「…で」

 ちらりと視線を向ければ、不思議そうに首を傾げる少女。

「君は、なんなんだ?」

「私は蒼居の守護者。こずえよ」

「幽霊…」

 言いかけた瞬間、頭の上にお盆が落下した。

「ッた!」

「うふふ、二度とそんな風に言わないでね」

 指をくるりと回すこずえに思わず深く頷いて、熱湯をゆっくり注ぎ入れる。

 お湯で温めたカップを用意し、頭に落下したお盆の上に乗せるとちらりとこずえを見た。

「行きましょう」

 微笑んだこずえがふわりと寄り添う。

 肩に乗るような状態で、呼吸を一つ。

 凌はゆっくりと歩き出した。
< 5 / 17 >

この作品をシェア

pagetop