Jet Black
 カップがわずかな音を立てる。

 沈黙にいたたまれなくなったのか、柏原社長もコーヒーを口に含んだ。

「…ふむ」

 沈黙が破られた。

 蒼居は考えるような素振りを見せながら、口許にゆっくりと指を添える。

「それは、探偵の役目ですね」

「ああ。始めはそう思った。そして、行方不明者に探偵が入ってしまった」

 ぴき、と凌の頬が引きつった。

 隣りのこずえがその肩にそっと触れていなければ、今度こそ声を出していたかもしれない。

「…なんでも屋。頼む」

 再び沈黙。凌がちらりと視線を向けた先には、静かに考え込む蒼居の姿があった。

「…行方不明者を見つけ出す。依頼はそれでよろしいのですか。原因は究明せず」

「…できるのなら原因究明もして欲しい。が、多くは望まん」

 柏原社長の声に、蒼居はゆっくりと表情を笑みに変えた。

「依頼、了解しました」

「…じゃあ!」

「最重要の依頼として、行方不明者捜索を優先させていただきます。それから」

 ―――あ、少し乗り気じゃない。

 出会ってからまだ一時間たっていない自分でも分かるくらい、蒼居の笑みが冷たかった。

「『魔法使い』のお話はご内密にお願いしますね」




 考えてみたら、それが。

 そう、その日が俺『駿河凌』と『蒼居』の。

 はじめての出会い、だったんだ。
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