Jet Black
 蒼居が指を振るとイスはすぐに元に戻った。

 こずえはふよふよと外に出て、店の『OPEN』の札を裏返している。触らないでだが。

 再び中に三人集合した時には、店の真ん中には大きなソファーと一人掛け用の柔らかそうなイス。

 そして、その真ん中にはティーカップとポットがセットされていた。

「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「へ?」

 急な展開に呆気にとられ間抜けな声を上げてしまった凌に、蒼居はやれやれとばかりに肩を竦めた。

「話して欲しいんじゃないのか?」

 ぱ、と目を輝かせたのはこずえ。

「蒼居ッ!」

「選択する権利は凌にある、というだけだよ。こずえ」

 そして、静かに輝く黒い瞳がゆっくりと凌に向いた。

「聞きたいか?」

 思わず喉が鳴る。

「…ああ」

「長くなるぞ」

「大丈夫。もう用事はないし」

 そうか、と一つ答えて。

 蒼居は一人掛け用のソファー椅子を指差した。

「じゃ、座って。どっちがいい?」

 一瞬きょとんとした凌は、すぐに理解して。

 にっこり言った。

「…紅茶で」
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