悠久を君に
幸いなことに捕まるような事はしでかさなかった。

家族が大好きな兄貴の事だから、家族に心配をさせるようなマネはしなかったのだろう。

中学生にして180を超える身長に、金髪頭の兄貴はすぐに見付かる。
そんな俺も中1にして170はあるから、すぐに目に止まるのだろうけど。

「悠平!」

俺の姿を見付けては、笑って声をかけてくる。
それでいいんだ…兄貴は兄貴だから。

さすがに大学に入ったらやんちゃ感は薄れて落ち着いたけど、今度はチャラチャラし始めた。
ちょっとアホっぽいが。

ただ…高校に入っても、大学に行っても兄貴の瞳にある"虚無感"は消えていなかった。

どこかで偽っている、中学の時みたいに。

素の自分を出せばいいのに、何故出さないのか?

そう言ったら一言「俺、アホだからさ」と少し寂しそうに笑っていた。

「アホだから何だよ?兄貴は兄貴だろ」

「ありがとうな…悠平」

わしゃわしょ頭を撫でてきた兄貴は嬉しそうに笑っていた。

きっと兄貴は抜け出せずにいたんだ。
中学の時から偽り、作り過ぎた自分を。
今更、素の自分を出すことに戸惑っているようにも見えたから。

いつか見付かるといいと思ってた。
こんなアホで馬鹿で気の抜けた兄貴を受け入れてくれる"友達"が。

"仲間"が。

だから今、懸命にハットの位置を確認する兄貴に「良かったな」と心の中で呟いた。
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