【短編】甘い野獣を愛してる
 ……そっか。

 見つけちまったか、女物の下着とシャンプー。

 ……浮気じゃねぇよ。

 それ、セリナのだ。

 悪りぃな。

 一気に覚めたろう?

 だが……オレとつき合うって、こういうこと、なんだ。

 オレは、いつもセリナの気配を感じてる。

 時々、メールや手書きのメモでやりとりをするだけで、直接本人には会ったことは、ねぇし。

 あいつが、何を考えてるか、なんて。

 さっぱりわからねえけどな……

 世間は、オレのことを演技力のある、イケメン個性派俳優、なんて持ち上げちゃいるが。

 結局、オレは顔だけ男。

 何度も暴力沙汰を引き起こし、毎週精神科で世話になってる、飲んだくれの狂人だ。

 しかも、マリア。

 お前がオレとちゃんとつき合う気なら、どうしてもセリナとも関わらなくちゃならねぇ。

 いろいろわかっているくせに、女の下着をそこらに脱ぎっぱなしにしているヤツだ。

 そんなのと一緒なんて、辛ぇだろ?

 愛してるぜ、マリア。

 だから、今日はそのチョコレート持って、いつものように帰れ。

 オレは……本当は、お前とつき合う資格なんて、無ぇんだ。

 お前を幸せになんて出来ねぇばかりか、不幸のどん底に突き落とす、絶対の自信がある。


 愛してるぜ、マリア。


 だから、もうオレと関わるな。


 ……泣くなよ、マリア。


 愛してる。


 オレだって、涙が……とまらねぇよ………


 愛してる……マリア……






 





















  
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