我妻教育〜番外編〜
母は、悔しそうに声と、膝の上で組んだ手を震わせた。


室内がしーんと静まり返る。



しばしの沈黙のあと、父が重く静かな声でつぶやいた。



「榮華は帰ってくる気はないのか」



その声は、静まった室内に響いた。


母も頷いた。


「…そうね。

榮華が戻ってきて継いでくれたら一番良いのに…。

でも無理でしょうね。あの娘、忙しそうだから」



父が、次は私の方に目を向けた。


「榮華に負けず劣らず、琴湖も才能はあるんだがな…」


何?

緊張が私の身体を駆け巡った。



「琴湖は、ダメ」


母は、ピシャリと即答した。



薄いガラスが割れたような、小さな音が胸の奥に響いた。

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