我妻教育〜番外編〜
「琴湖ちゃん、車は?歩いて?」


「歩いてですけど…」


「じゃあ、送るよ」

綾人さんは車椅子を押して、私に並んだ。


「いいえ、そんな…」



「もう暗い。女の子独りで帰ったら危ないよ。

僕なんかじゃ頼りないとは思うけど。

こんなんでも、お守り代わりくらいにはなるよ」


ニコッと歯を見せて綾人さんは、笑う。



「お守りだなんて…」


私もつられて小さく笑った。


ホワンと和やかな空気になる。


まただわ。


こうやって、綾人さんは気持ちを軽くしてくれる。


笑顔も言葉も、まるで魔法のようだわ。



車椅子の綾人さんと並んでゆっくり歩く。


行きはどう歩いたのか記憶にないのに、綾人さんと歩くこの帰り道は、視界に景色がはっきりと見えた。

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