我妻教育〜番外編〜
すごろくで、“振り出しに戻る”が出たときの気分。


一度進んだ道をやり直すのは、努力して進んでいればいるほど、強いダメージがある。



身体を起こすことができない。


この激しい脱力感は、体調のせいだけではない。


これはゲームなんかじゃない、私のリアルだ。




「琴湖お嬢様!お気づきになりましたか!」


我が家の古株の使用人が、覆い被さるように私の顔を覗きこんだ。


医療モニターの音、布団の手触り。

消毒っぽい独特の匂い。


カーテンの閉められた室内は薄暗く、まだ視界はぼやけたままだったけれど、ここが病室だということは、すぐにわかった。


腕から伸びる細い管は、点滴。



「あら、気がついた?」

看護師が病室に入ってきて、


「大丈夫?40度近くも熱が出ていたのよ。

喉渇いていない?飲み物持って来るわね」


と、私のそばにきて、私の様子を確認した。



「お嬢様!お加減はいかがですか?」


心底心配した使用人の呼びかけにも反応をしめすことができない。



熱い。ぼーっとする。

熱はまだ下がっていないようだ。

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