我妻教育〜番外編〜

その拾

「起き上がって大丈夫?」


綾人さんは、私を気づかう。


綾人さんの顔を直視することができず、私は目を伏せた。


「ええ、もう。
熱も下がりましたから、もう大丈夫ですわ。」


「ホントだ。顔色もずいぶん良くなったね」


「ええ。院内を散歩する許可も出てるんです。
まだ行ってませんけれど。

明日にも退院だそうです」


「そうか。良かった」



少し沈黙してから、

「せっかく、渡航の準備をして下さったのに、こんなことになってしまい…

ご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありませんでした」


私は、綾人さんに頭を下げた。


合わせる顔がなくて、下げた頭を上げることができなかった。



「頭を上げて。謝る必要はないよ。

今は自分の身体のことだけ考えて?

だけど、残念だったね。
せっかくあんなに準備したのにね」



「…いえ、」


…あんなに、準備…か。

うつむいたまま、苦笑いした。


「綾人さん、入院当日からお見舞いに来て下さってありがとうございました。

私ったら、情けないところばかり綾人さんに見せてしまってますわね。

孝さま孝さまって、子どもみたいに口走ってしまって、お恥ずかしいですわ。

熱で、変に気が高ぶってしまっていたのかしら…」
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