我妻教育〜番外編〜
私の目に映った綾人さんの表情は、好意的だった。


「いや、ガッカリなんてしてないよ」


そう言ったあと、私の不安な気持ちを包み込むような穏やかな笑みを浮かべた。


「相変わらずだね。

琴湖ちゃんは物事を真面目に考え過ぎて、そうやって自分を追い込むんだ。

“自分を変えたい”
“孝市郎のことを大切に想っている”

その2つの強い想いを持っている。

ただそれだけのことだ。

2つの想いが同時進行だったから混乱しただけで、そもそもはシンプルなんだよ。

悩むことも、申し訳ないと思うこともないよ」



なんだか胸が詰まる。


綾人さんも、相変わらずだわ。


いつも穏やかで、達観されている。


私とは違う。



「またすぐに行ける機会が訪れるよ」


励ましてくれていることはわかっていたけれど、優しさを素直に受け入れる気にはなれなかった。



「次の機会なんて、もうないですわ」


ひねて可愛くない…私。


自己嫌悪に顔をしかめた。


「こんな身体じゃ、今後何も挑戦なんてできません。

私は、やっぱり何もできないダメな人間なんです。

母は、昔から、私に何もさせてくれませんでした。

身体が弱いことを理由に、あれもこれもダメだって。

そんなことない。
私だって、やれば何でもできるって思ったけれど、母の言う通りでした。

結局何もできずに、この有り様です。

私には、変わることなんて、輝くことなんて、できないんです」



姉や、未礼嬢の背中は、遠くなるだけ。


私は、羨んで見てるだけ。

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