我妻教育〜番外編〜
唇を噛みしめた。

悔しい。



『だから言ったでしょう。もう大人しくしていなさい』


昨日お見舞いにきた母にそう言われ、何も言い返せなかった。

ぐうの音も出なかった。




「そんなことない」



「え?」

綾人さんの顔に目をやった。



綾人さんは、じっと私を見て言った。


「琴湖ちゃん、君は確実に変わっているよ」



「まさか」

眉をひそめた。


「自分ではわからないだろうけど、僕から見たら、夏休み前の君とは、まるで別人だよ」


「…変わったのは髪型くらいじゃないかしら?」



「髪だけじゃないよ」

綾人さんは、クスクス笑って、

「信じられないって顔だね」と、私の顔を覗いた。



「ええ」


だって、結局達成できなかったんだもの。


たどり着くことによって見えたはずの景色は、見れないまま、また病院の中に舞い戻った。


進んだどころか、逆行してるじゃない。



「結果としては、成せてないかもしれないけど、過程は無駄じゃないよ」

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