我妻教育〜番外編〜
病院の中庭には、大きな木がある。


その庭を窓越しに見渡せる待合スペースの前を通った。



「少し座って行こうか」


綾人さんの提案で、私は近くのベンチに腰掛け、綾人さんの車椅子と並んで、無言で中庭の木を眺めた。



しばらくして先に口を開いたのは、綾人さんだった。


「さっき、琴湖ちゃんのことを“考え過ぎる”って言ったけど…

実は、僕も考え過ぎるタイプだから人のことは言えないんだよね」


中庭をどこという訳でもなく眺めながら、ただの世間話でも始めるようなサラリとした口調だったから、


「少し、僕の話をしてもいいかな?」



そう言われても、特に構えることなく、うなずいた。


「ええ。もちろん」


綾人さんが、ご自分のお話をしてくれるなんて珍しい。
と、むしろ興味があったんだけれど…。



「僕は、昔バスケをやっていたんだ」


「まぁ。バスケットを」


「うん。初等部のころから、高等部の途中までね。

たまにバスケする夢を見て目が覚めて悲しくなる。

自分の身体のこと、今でもたまに受け入れることができない瞬間があるんだ」


ドキリとした。

深刻な話!?

とっさに身構えた。


綾人さんは、気安く微笑んで、

「大丈夫。気楽に聞いて」と前置きして話続けた。
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