我妻教育〜番外編〜
私は、一層目を見開いた。


信じられない。


視界がユラユラとした。


まさか、綾人さんにそんなことを言ってもらえるなんて。



「その言葉で、報われたような気がいたしますわ」


目の端をこすった私に、綾人さんの温かな視線が注がれる。



「今回は、目標が大きかったんだよ。

目的地に、一歩でポーンとたどり着けちゃう人もいるんだろうけど、普通はそうじゃないよね。

孝市郎だって、散々回り道して、あの場所にいる。

特に身体にハンデがある場合は、不条理だと思うかもしれないけれど、他の人より一歩が小さい。

慌てないで、できることからゆっくりやっていこう。

一歩一歩前進していけば、時間はかかっても、いつか必ず孝市郎までたどり着けるよ」



目の前が、晴れやかに広く開けていく感覚がした。


また、わき上がってくる。


冴え冴えとした、前を向く気持ち。


一度は深く沈んだ人生の転機をもう一度手繰り寄せたい。


無茶をせず、私は私のスピードで。



劇的に変わることは無理でも、少しずつ少しずつ、いつか気づいたら、きっと私たちは大きく変わっているはずだから。

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