我妻教育〜番外編〜
土曜日の午前中。


門前を掃いていたら、ニューヨークにいる啓さまから電話がかかってきた。


何かと思えば、啓さまは、開口一番聞いてきた。



『兄上の所に行こうとしていたらしいな』



ギクリとした。今さら?!


夏休みに、私が、孝さまに会いに行こうとしていたこと。


どうして、啓さまが知っているのよ。



…告げ口したのは、おそらくジャンね。


白雪からでも聞いて、啓さまに言ったんだわ。

余計なことを…。



「…ええ、まぁ。予定を立てたのは事実ですが…。

実際行けませんでしたけれど」


そう報告したら、電話口から呆れたようなため息が聞こえた。


『当たり前だろう。琴湖には行ける訳がないではないか。

身体のことを考えれば、観光気分で行ける所ではないのだから、無茶をするでない』


スッパリと、たしなめられた。


想像通りのお言葉だわ。


だから、啓さまには言わなかったのに…。


心の中で大きくため息をついた。


啓さまは、私の身体のことを知っている。


だからこそ、心配して下さっていることは分かっている。


心配して下さって、有難いとも思う。



分かっているけど、言われなくても、もう、自分の無力は散々実感したわ。


もう整理のついたことを今さら蒸し返されてるみたいでムッとして、啓さまに対してつい意地悪を言いたくなった。
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