我妻教育〜番外編〜
「啓さま?

私のことよりも、心配すべきことは別にございますわよ」


わざと挑発するような口調で言った。



『…何だそれは?』


啓さまの訝しげな声。



「未礼嬢のことですわ」



『…―未礼?』


予想外だったのだろう。


私の口から未礼嬢の名前が出たことが。


ほんの少し動揺した様子が聞いて取れた。


電話だから、表情が見れないのが残念だわ。



そういえば、未礼嬢の話をするなんて、啓さまと未礼嬢がお別れして以来かも知れない。


気を使って話題を避けていたから。



などと、ぼんやり考えていたら、


『未礼がどうかしたのか?』


啓さまは、私の答えを急かす。



平静な声を装ってらっしゃるけれど、これは焦っている。


長年の付き合いの私には手に取るようにわかる。


ちょっとした、いたずらっ子になった気分だった。



「どうも素敵な男性が近くにいるようですわ。

未礼嬢は、ますますお美しくおなりですし、ただでさえ世の男性はほっておかないでしょう。

啓さまも、自己啓発も良いですけれど、いつまでも未礼嬢をほっておいたら、他の男性に獲られてしまいますわよ」
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