我妻教育〜番外編〜
心の中でクスクスと笑ってしまった。



未礼嬢のバイト先の店長さん。


独身か既婚かは存じ上げないけれど、素敵な男性が側にいるということに変わりはない。


啓さまがどういう反応を示すのか、耳をそばだてる。



『…そうなったとしても、もう私と未礼は…、もう、関係がないのだ』


静かにそう言ったあと、啓さまはしばし無言になった。


少し可哀想だったかしら?


でも、真実よ。


むしろ焦った方が良い。手遅れになる前に。


婚約は解消したとはいえ、未練がおありならば。


未礼嬢は、同性の私が見ても憧れる、キラキラと輝く素敵な女性なのだから。




‥*‥*‥私の言葉に触発を受けたかどうかは定かではないけれど、啓さまもまた動き始めることになるんだけれど、それはまた別のお話。‥*‥*‥




「琴湖!そろそろ着付けなさい!」


家の方から、私を呼ぶ声が響く。


母だ。



「―は、はい!」


もうそんな時間?


携帯電話を押さえながら、母に向かって返事をし、


「…これから、たくさんお客様が来るんですの。

では、また。ごめん遊ばせ」


電話を切って、急いでホウキを片付け、家に入った。



母は、気合いが入ったときに着る用の着物をお召しだった。


私も着物を着なければならなかった。


今日は、忙しい。


我が家にとって、大事な一日になる。
< 451 / 493 >

この作品をシェア

pagetop