我妻教育〜番外編〜
兄は着物の帯に手を引っかけ、天を仰ぎながら竹林を歩く。


「すごいよな~、お祖父さま(先代家元。父方)とお祖母さままで来るなんてな。

琴湖はもう会ったか?」



「ええ」


久々、兄と話す。

並んで歩きながら、違和感を覚えた。


きちんと向かい合って話をするのは、兄が家を出たあの朝以来。


随分と、昔のことのようだった。


あの後、色々あったわ。



「風が涼しいな。もう10月だもんな、秋だ」


竹の間をすり抜けてくる風に当たるのが好きなんだ。


と、感慨深げに横顔の兄は呟いた。



―世間話なんて、今はどうでもいい。


兄には直接、

「聞きたいことがたくさんあるんですけれど」

しびれを切らして尋ねた。



「…だろうと思ってさ」


兄は立ち止まり、確信的にニヤリと笑った。


「迷惑かけて悪かったな。

同じ家に住んでても話す機会なかったよな~。

家に戻って来ても、俺はあちこち仕事行かされてたから。

まあ、下働きの雑用係みたいなもんだから、仕事以外は疲れて寝ちゃってるし…。

ていうか、琴湖も忙しそうだし。何か趣味でも見つけたのか?」
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