我妻教育〜番外編〜
兄は頭をかき、情けない笑みを浮かべた。


「こうなってみて初めて、今までどんだけ甘えて生きてきたんだろうって、よく分かったよ。

仕事に対する考え方とかさ。

親父はオレのこと見限ってるみたいだけど、ありがたいことに、また家で仕事させてもらえてるし、いつかまた認めてもらえるように頑張るよ」


ハッとした。


兄の瞳に、強い光を感じたから。


兄の口から、仕事を頑張るなんて言葉、初めて聞いたわ。


それって…


「お兄さま。それは、家元になりたいとお思いってことでよろしいですか?」



兄は首をかしげ、曖昧にはにかんだ。


「まだこんな俺に、家元になっても良いって言ってくれる人たちもいるみたいなんだ。

それには、彼女との関係を含めた色んな条件があるみたいなんだけど…。

でも今は目の前の仕事をとにかく頑張るつもり。

先はどうなるか分からないけど。

今のままじや情けないだろ?

子どもに会わす顔がないからさ」



「そうですか」


私は今日初めて兄に笑顔を向けることができた。



「じゃ、そろそろ戻ろうか。

こんなとこにいて母さんにバレたら怒られるもんな」


照れ隠しか、兄は少しぶっきらぼうに言い捨てると、もと来た道を戻りはじめた。



兄の薄い背中を追いながら、頼もしさを覚えた。


兄を見る目が少し変わった。



でも、人ってそんなにすぐに変われるものかしら。


いえ、そんな風に疑ってはいけないわ。


変わりたい。他人に無理だと言われても。


私だって同じなのだから。



どうせ行くところもないから、おずおずと連れ戻された訳ではなくて、子どものために、仕事をするため。


決して不本意などではなくて、兄なりの覚悟。


子どもへの責任感。
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