我妻教育〜番外編〜
自分がしたことへのペナルティとはいえ、これまで次期家元という華々しい立場だった兄が、今は電話を取ったり、重い荷物を運んでいる。


見せしめのように、お弟子さんがするような仕事をさせられて。



どうせ、いずれまた次期家元として表に出ていくための信頼を回復させるためだけのパフォーマンスだ。


それでも、下働きの雑用係なんて、以前の兄ならばすぐに逃げ出していたはずだ。


けれど、ことのほか兄は真面目に取り組んでいたのだ。



これまで、兄に足りなかったのは、覚悟だ。



その覚悟を得、兄が頑張るなら、まだ兄が次期家元として居残ることだって可能なはずだ。



なぜなら、和彦さんよりも、兄の方が華道家としての才能があるから。


だからこそ、父だって、自分の後釜に兄を選んだんだ。


ただ長男だったから、という理由だけではない。



姉は、稀な才能を持っていた。


兄だって、才能が無いわけではない。


圧倒的にやる気や覚悟が足りなかっただけだ。




「琴湖~!!」



兄と竹林を出たところで、呼びかけられた。



「部屋に琴湖いなかったからさ、絶対竹ん中だと思って。

あ、兄貴も一緒だったの」



「お姉さま!?」「榮華!?」


驚いて、私と兄は同時に名を叫んだ。



私を呼び止めたのは、姉の榮華だった。


「お姉さま、どうして、家に…」



「いや~、何年ぶりだろ?!家に帰ってくるの超久しぶり!」


姉は、周囲をぐるっと見渡して眩しそうに笑った。



――そう、何年ぶり!?



表向き“勘当”されていた姉が帰ってきた。


しかも、このタイミングで。

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