我妻教育〜番外編〜
最前列の左都子伯母さまが立ち上がり、兄を一瞥する。


「本当に反省されているというのなら、“次期家元”という肩書きも返上されることをお勧め致します」


あまりに率直なご意見に、室内は雷でも落ちたかのように静まりかえった。


「プライベートなことに口を出すつもりはございませんが、次期家元という立場であられる身としては、あまりに自覚がなさすぎます。

竹小路流のイメージを下げたこと。

仕事を放り出したこと。

これは、由々しきことですわ!

今回の件だけではありません。

これまでも何度となく仕事を休んだり、遅刻したりされているようですし。

反省したって、人はそう変われませんわ。

いくら精進しようとも、善彦さんは、果たして将来、家元になるにふさわしいでしょうか?」



左都子伯母さまは、ここぞとばかりに責め立ててくる。


クルリと身体を集まった人々の方へ向けた。


まるで何かの演説のよう。



だけど、左都子伯母さまがこのような言動をされることは、こちらとしては完全に予想通りの展開だ。


この場にいて、驚く者など誰もいなかった。


剣幕に引く者はいても、皆、冷静に聞いている。



左都子伯母さまは、息を吸い込んだ。

大きな声を張り上げるために。


「次期家元としての肩書き自体を撤回するのが筋というものですわ。

そして、次期家元に関しては、改めて一から選出するのも一案。

長男だからと継げる世の中では、もうありません!」


賛同を得ようとばかりに、両手を広げてアピールした。



拍手が起こる。



その拍手が、想像を超えて多かったことに、驚いた。


母の緊張感が増した。


兄も息を飲んだようだった。



左都子伯母さまが、こんなにも支持を集めていたなんて…、恐れ入るわ。



父は、目を閉じ息を吐いた。

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