我妻教育〜番外編〜
「今後の家元選出についてだが、まだ構想中であるから、このような場で言うべきではないのだが…」


と、前置きして、父は咳払いした。


「善彦も含めて、本家の人間だけでなく、能力、人柄、総合的に勘案して、皆が納得する家元として相応しい人物を選出することも検討すべきと考えているところである。

それまでは、何年でも私が家元を務めるつもりだ」



父の言葉に、左都子伯母さまは満足げにうなずいたものの、またすぐ厳しいまなざしに戻る。


「さようですか。ですが、恐れながら、家元はお身体が…」



「家元の不調時は、私が代行致しますのでご心配なく」


すかさず母は強い口調で答えた。


左都子伯母さまの眉が不快にピクリと動いた。



驚いた。


父の後ろで控えてばかりだった母が、自らが表に立つ。


そんなことを言い出すなんて、初めて聞いた。



母と左都子伯母さまの間にバチバチと見えない火花が散った。


立位の左都子伯母さまは、座ったままの母を見下すようように、

「貴女にそんなことができて?」

高飛車な声を張り上げた。



母は、左都子伯母さまの挑発に動じず、睨み付けるような笑みを返した。


「ご心配なく。そして、必ずや善彦を立派な家元に致しますわ」



「家元になるのは、和彦です!」


左都子伯母さまは、さらに声を荒げた。


対峙する母と左都子伯母さま。


室内は、ざわざわとし始めた。



家元の長男である兄の善彦。


家元の姉の左都子伯母さまの長男である和彦さん。


今後、家元争いは、この二人の一騎討ちになるのかと思いきや、ここで予想外の展開が起きた。



「皆様!お静かに!」


皆の視線が、声のした一点に集中した。


最前列、左都子伯母さまの反対側に座ってらっしゃった“師範取締役”が、すっと立ち上がったのだ。
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