我妻教育〜番外編〜
師範取締役、富士子(フジコ)さま。


年の頃は、お祖母さまと同じくらいで、その肩書きの通り、師範たちを統括している立場にいらっしゃるお方だ。


つまり、竹小路流の中でもっともお力のある師範。



先代家元(祖父)の妹にあたるお方で、ちなみに母は、陰で富士子さまのことを『イタチ』と呼んでいる。


富士子さまは、小柄で丸顔、ミンクの毛皮がお好きだからイタチって呼んでいるの、と母は言っていた。


キツネとタヌキと同様に化けると言われている“イタチ”の名をつけている自体、つまり富士子さまも、母から見れば、くせ者。という訳だ。



富士子さまは、涼しげな目元で、先代、現家元、それから集まった人々に視線を流してから、再び家元を見据え、含み笑いを浮かべた。


「恐れながら、お家元。

この場を借りて、私が次期家元に相応しいと思う方をお一人推薦したく存じます」



「推薦?」


室内がさざ波のようにざわめき立った。


――推薦?!


富士子さまにも、家元を継がせたい人物がいるというの?!



「ええ、竹小路の血をひく方ではございませんが」



「外の人間ですって?!富士子さんったら、何を馬鹿なことを!」


真っ先に左都子伯母さまが大声で異を唱えた。



富士子さまは、皮肉げな視線を左都子伯母さまに向ける。


「長男だからと、継げる世の中ではない、と言ったのは貴女よ、左都子さん」


「…っ!」


「それに、お家元もたった今おっしゃられたではありませんか。

本家の人間だけでなく、幅広く家元に相応しい人物を選出していきたい、と」
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