我妻教育〜番外編〜
「クーデターでも起こすおつもり?!」


左都子伯母さまの語尾が怒りで震えている。



「クーデター?!

嫌だわ、左都子さんったら、人聞きの悪い!

私は竹小路流の今後の発展を考えているだけですわ」


揚げ足を取って得意気な富士子さまは、高らかに笑う。



「お二人ともお静かに。

富士子さん、ご推薦されたいのは、どなたなんです?」


母が、努めて冷静な声で割って入った。


だけど、内心は相当焦りと憤りを感じているに違いない。



キツネ(母)、タヌキ(左都子伯母さま)、イタチ(富士子さま)がにらみ合っている。


その光景に誰もが息を凝らした。



富士子さまは、不敵な笑みを浮かべて、


「どうぞ、お入りなさい!」

と、部屋の外に向かって大きな声をかけた。



皆の視線が出入口に集中する。


すると、勢いよく扉が開かれた。


開け放たれた扉の向こうから入ってきた人物に、私は唖然とした。


いや、驚いたのは、私だけではない。


この場の人も空気も、凍りついたかのように固まった。



“その人”は、まっすぐに前を向き、もはや躊躇なく、私にも兄にも目をくれず、富士子さまの横まで歩くと、父と母に向かって一礼した。


宣戦布告の合図だ。



凛とした佇まい、迷いのない眼差し、自信をたたえた強気な笑み。


少し前のあの憔悴していた人だとはとても思えなかった。



「小百合さん…」



そう、富士子さまが次期家元にと推薦したのは、兄の元婚約者の小百合さんだった。
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