我妻教育〜番外編〜
小百合さんは、兄の裏切りに傷ついて、休んでらっしゃったのではなかったの?


私は、傷ついた小百合さんのことを心配していたのに!


それに、いまだ兄との結婚を望んでらっしゃったのではなかったの?


それがまさか、次期家元候補に立候補して、兄と戦おうだなんて!


いつの間にそんなことになったの?



父と母も、左都子伯母さまも、ひきつったように顔を硬直させたまま、言葉が出ないようだった。



「ほらな、俺なんかの手に負える女じゃなかった…ってな」


横の兄が、ボソリと他人事のように呟いた。

私に聞こえるように。


兄だけが驚いていなかった。

私はすごく驚いたというのに。


私の、竹小路流を奪われる。寒気すら覚えた。



「ははははは!!」


ここまで終始無言でご覧になっていた、先代家元(祖父)が、突然、愉快そうに笑い声を上げた。


笑い声に和むどころか、より一層、場は凍りつき緊張感が増した。



「これは一興!面白くなってきたではないか!

どうだ、他にはおらぬか?ん?

我こそは、家元になろうという意気込みのある奴は!」


先代は、室内にいる人たちをぐるーっと見回し、わざとらしく挑発してきた。



静まり返っていたのが、一変して、ザワザワと騒然とし始めた。


話が、思ってもいない方向へと進み初めている。


場は、かつてなく混乱した。


このままでは収拾がつかなくなる。
< 468 / 493 >

この作品をシェア

pagetop