我妻教育〜番外編〜

その拾弐

竹林の中の離れの茶室。


母が茶を立ててている。


増す緊張感を静めようと、立ち上がる湯気と交互に母の姿を見つめた。



『少し、話をしましょうか』


さっき、お客様たちをお見送りしたあと、そう母に声をかけられた。



先ほどの、次期家元候補の話に違いない。


父が私を次期家元候補者に加えると宣言されたことについて、だ。



茶を立てる母の所作は凛と美しく、まだまだ敵わないと思った。


母が、私の前に茶を置く。


母とこんな風に改まったカタチで向き合うなんて、今まであったかしら。


思わず身構える。



「お家元が、おっしゃっていました」


と前置きして、母は凛とした佇まいを崩さないまま語り出した。


「琴湖を今まで次期家元にと推さなかったのは、琴湖の身体が弱かったから、だけではないと。


“琴湖は、優秀だ。

だが、人前に立っていく度量があるとは思えなかった。

性質的に家を継ぐには不向きだと。

だけど、違った。

私たちは、誤解していたようだ。

最近の琴湖は、とても強くなった”


――そう、家元はおっしゃっていました」
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