我妻教育〜番外編〜
“琴湖はお嫁さんになるのよ”


かつてそう言った母の胸の内をようやく理解することができた。



そして、気づいた。


胸の中の小さな砂漠の正体は、ただの嫉妬だってことに。


ただの子どもと同じ。

私は拗ねていただけ。


母に、愛されている。


ただ単純に、実感が欲しかった。


姉や兄と比べようもない無二の愛を。


込み上げるものを感じた。



――ほら、いつもそう。


解決しがたい胸の奥の塊は、温もりある柔らかな声の肌触りで、じわりと溶かしてくれる。


「私はいつも、綾人さんに救われていますわね…」


言葉に出して、カアッと顔が耳まで熱くなった。


恥ずかしくて動悸がする。



「…つ、着きましたわね」


大学の校門が見えたから、慌てて話を切り替えた。


校門を指さした私の手の上に、パタタッと何かが落ちてきた。

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