甘いキスは放課後に
私が苦労してまで草の昼を確保した理由。実莉には絶対言わない。言えるわけない。けれど、理由なら明確だ。
望月実莉という少女は、今までの十数年の人生を振り返ってみてもわかる通り、恋愛に対して興味がない。なさ過ぎだ。私は彼女以外の究極の非恋愛体質を知らない。非というより無だな。
モテなくもない。見た目は私以上だ、と私は確信している。実莉は絶対それを認めないだろうけど。元が違う。実莉は綺麗だ。
わかる奴にはわかる。実莉は美しく、汚れていない。今まで特に何もしてこなかったが、してこなかったなりの清潔さがある。そして、何もしていないのにモテなくもない、ということは、何かすれば絶対にモテるということを表している。何もしていない上に恋愛に興味がないのだ。そんな奴がモテなくもないなんて、通常じゃ考えられない。よほどの人間じゃなきゃ気付けない。そいつの究極の自然的な魅力に周りが気付けない。だが実莉は違った。
努力もせずに恋愛にありつける奴を私は嫌う。それが妬み嫉みで、醜くはないが悪い感情だとも承知してる。努力していない女が、男にちやほやされて幸せになるのを私は嫌う。たとえそれが、どんなに性格の良い人であっても、どんな天然鈍感であっても。自分であっても、それを許すことはない。
どちらかと言えばそれに近い実莉を、私が嫌わないのは、彼女が恋愛に対して超絶無関心だからなのかもしれない。真相はあえて伏せて置こう。
その望月実莉が、キスを望んだ。他人の唇を求めた。どんな感情であるにしろ、感情がないにしろ、それは奇行だ。自ら行ったわけではなさそうだが。