片恋綴
小さくて狭い私の世界で。
今日も晴れやかでいて曇っている。
からり、とベランダの窓を開ける。澄んだ青空と秋の微かに冷たい空気が頬を撫でる。
「あ、はよーございます」
ベランダから少し身を乗り出したそのとき、低いのだが少々可愛らしさを含む砕けた挨拶が耳に届き、私は顔を左に動かした。
「おはよ」
そこにいるのは黒髪を適当に伸ばしたような髪型をした少年と青年の間くらいの男の子。私より五つも下なのに、無表情に近い顔はやけに大人びて感じられる。
アパートの狭いベランダ。
柵から少し身を乗り出せば隣のベランダがよく見える。そして身を乗り出せば、隣からも私の姿はよく見えるはずで。
「いい天気っすね」
彼――祐吾君が呟くように言った。彼には朝の天気が最も重要なのだ。
「そだね」
私は今朝が天気がいいからベランダに赴いたのだ。天気がよければ彼がベランダに出てくるから。
――気付いたのはいつだったか。そんなことはもう忘れた、というより忘れたいのかもしれない。
それでも顔が見れるなら、話が出来るなら、とこうしてベランダに出てきてしまう。
我ながら浅はかというか、単純というか。
「……その髪型、似合いますね」
祐吾君が私に視線を向けたまま言ってくれた。昨日、緩いパーマをあてたばかりの栗色の髪。