片恋綴
「佐南さん」

短期のバイト終了の日。私は片付けが終わった佐南さんの背中に声を掛けた。

すると佐南さんは優しい目を向けてくれる。でも私はまだ、その人を受け入れることは出来ない。

それでも、そればかり気にして、接することが出来ないとかはない。それは、佐南さんの言葉のお陰で。

以前の私なら、佐南さんの気持ちばかりを変に考えて、声を掛けることなんて出来なかっただろう。でも、私の気持ちとしては、今まで通りにしていたい、と思うのだ。

「また、必要なときは声を掛けて下さい」

私が言うと、佐南さんは、ああ、と笑った。

この人の笑顔は好きだ。

何でも話せて、何でも聞いてくれる人。

私の気持ちの行方がまだ何処にあるのかはわからない。

永久さんのことだって、完全に忘れることは出来ていない。

それでも、少しずつ進んで、周りをきちんと見られる大人になりたいと思った。



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