片恋綴



「お待たせしました」

この間の彼が本当に店に来てくれたので、私はお願いしてバイトが終わる時間に外で待ってもらっていた。彼は律儀にその時間に綺麗な姿勢で待っていてくれていた。

「大丈夫です。待ってないです」

彼は微かに笑って返してくれた。

「あの、お話があります」

私が軽く拳を握りながら言うと、彼は何ですか、と首を傾げた。そしてそのあと、何かを思い付いたように途端に慌て出した。

「え、あ、あの、すみません。迷惑でしたよね。こうして店に訪れるなど……」

どうしてそういう解釈になったのか。私は自分の立場も忘れ、失礼ながら吹き出してしまった。

「え、あの……どうされましたか?」

先日の真っ直ぐな瞳で背筋を伸ばして想いを告げてきた彼と、今目の前で慌てふためく彼は別人に感じる。

それだけ、あのときは必死で真剣だったというのがわかる。それなら、私はきちんと向かい合わなければいけないのだ。


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