片恋綴


「いえ、ごめんなさい。あまりに誠実な方だと思って」

私はどうにか込み上げる笑いを抑えて言った。すると彼は落ち着きを見せてから、そんなことないです、と言った。

「誠実なら、こんなふうに押し掛けたりしないし、貴女の気持ちをわかっていながら想いを告げたりしないです」

そんなふうに言う彼はやはり誠実な人で。

「すみません、私は嘘を吐きました」

深く頭を下げてから、真っ直ぐに彼を見る。彼は私が何を言いたいのかわからないようで、え、と小さく口を開いた。
切れ長の細い瞳が確りと私を捉えている。私は今までこんなふうにきちんと誰かの目を見て話したことはないと思う。

祐吾君のことだって、この一年間、横顔を眺めてきただけ。
諦めてたからではない。きちんと相手を見ることが私には出来なかっただけのこと。

狭い世界で生きてきた私は人と向き合うことを面倒だと思い、避けてきた。まるでそれが当たり前だと謂わんばかりに。

それを変えたい、と思えた。


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