片恋綴
「俺、もう二十歳です」
そう言うと原崎さんは、へぇ、とさして興味などないような返事をした。本当に俺の年齢になんて興味なくて、さっきの発言は何となく言ってみただけのものなのだろう。
原崎さんとはそういう人。
殆どの発言が何となく。だから、それを勘違いして興味を持ってしまう人もいるのだ。
「おはようございます」
空き缶に吸い殻を放り込んだ瞬間、緊張した声が聞こえた。いつもの柔らかさを半分以上失った声。
「あ、ポチちゃん」
原崎さんは煙草をくわえたままその声の主を呼ぶ。そこにはふんわりと巻かれた長い髪を珍しくおろした彼女がいた。勿論、ポチなんてのが本名ではない。
それでも彼女は「ポチちゃん」と呼ばれても嬉しそうにしている。
彼女――薙野理生(なぎの りお)は俺の高校時代の二つ先輩。とはいえ、何処か抜けた性格の彼女は二つも年上に思えない。
同じ放送部だったのがきっかけでよく話すようになり、家が同じ方向だったので送ったりしてるうちに好きだと感じるようになった。なんてことのない、感情の始まり。