片恋綴


「あんな顔が整った奴に可愛くてないとか面と向かって言われたらプライドが傷付くだろうが」

佐南さんがカメラをセッティングしながらぼやく。確かに原崎さんの顔立ちは整ってはいるが、佐南さんの方が美形だと思う。それでも佐南さんは自覚がないのか、自分のことは置いておいてなのかよくそういうことを言う。

「確かにそっすね」

俺はそれを手伝いながらそう答える。

「だろ? それであいつは今まで何人ものモデルのご機嫌を損ねてきてるんだよ」

佐南さんはそう言ったあと、本当に困った奴だ、と溢した。それでも原崎さんをくびにしたりしないのは、二人の間に信頼関係があるからなのだと思う。

「……原崎さんて、モテるんですか?」

俺が訊くと、佐南さんはぴくり、と眉を動かした。これはまさか、変な勘違いをされたか。

「ああ……ああ、そういうことか」

だが佐南さんは直ぐにいつもの表情に戻り、一人で納得したように頷いた。漆黒の絹のような髪がさらさらと揺れる。



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