片恋綴
随分と端整な顔をした男の子。
引っ越しの挨拶に来た彼を見た瞬間にそう思った。
真っ直ぐに私と目を合わせて、ほぼ無表情で「今日から宜しくお願いします」と小さな菓子折を差し出してきた彼。するとたまたま遊びに来ていた幼馴染みの男が「どうせお隣さんが女なら美人のがよかったでしょ」と彼に冗談を繰り出した。
そいつは無類の女好きで、いつも私に地味だの色気がないだのと言ってきていた。けどそこに悪意が含まれていないのは知っていたし、幼馴染みとして気心が知れていたので腹を立てることもなかった。
そもそも、私が地味なのも色気がないのも事実なのだから。
真っ黒の伸ばしただけの髪に、そこそこ適当な服装。化粧もなし。アクセサリーもなし。加えて眼鏡。
なのに祐吾君は少し考え込んでからこう言ったのだ。
「いや、おねえさん、可愛いですよ」と。
女好きでない男に免疫のない私はその言葉をあっさりと信じてしまったのだ。自分でもいい年して、と思わないこともない。
いや、はっきりと思う。
それでも、嬉しかった。そう言ってもらえることが嬉しかった。
幼馴染みの男は勿論、吹き出した。祐吾君が帰ったあとに。